−到津伸子写真展−
   不眠の都市 
−ちょっとずれてるパリ-

会期:
2005年 10月25日(火)−11月7日(月)
11:00−18:00 日祝休廊
会場: アートスペース・サンカイビ
オープニング・
レセプション
10月25日(火) 18:00〜20:00

  

  




  1970年代〜90年代にかけてフランスに滞在し、画業を続ける傍ら季節や一日の時間によって変貌するパリの光の美しさに魅せられて写した作品群。
  モンパルナス駅を見下ろすバルコニーからの雄大なパノラマ、光の沐浴を受けるアトリエの窓、そしてアパルトマンの階段など。今では感じることのできない70年代のパリの光や空気が到津作品の中に息づいている。


 今回は到津伸子のエッセイ集 「不眠の都市」 (第19回講談社エッセイ賞を受賞) に掲載されているオリジナル写真を展示したはじめての写真展です。是非この機会にご高覧下さいますようご案内申し上げます。



写真にはそれぞれ、裏面に
●エディッション番号(限定5〜7部)
●作家直筆サイン ●イラスト

が入っております。また、額装裏にはアクリル版で小さな小窓が切ってあるので上記がご確認頂けるようになっております。(アートスペース・サンカイビ)
 



見える光

 いつ頃から写真をとるようになったのか、よく憶えていない。
気になるのは、夏の夕方の青い光だった。喪失感を伴った、儚い夢のようなあの光を、きっと撮りたかったのだ。しかし、何に向けてシャッターを切ったらいいのか分からなかった。
 初めはバルコンから俯瞰したモンパルナスの風景、何度か絵に描いたことのある見慣れた風景の中にその光を探した。人はよく、「何故あんな醜い建物に関心を持つのか」と不思議がった。確かに魅力のない建物だ。キリコもこの駅を描いているが、彼は何故描いたのか...。私の場合は、近くに住んでいて、いつも見ているという、それだけの理由だった。毎日顔を合わせている相手であれば、美しくなくても化粧した時の美しさを知っている。その頃、私は、気象や光で変幻していくモンパルナス駅の雄大な美しさに取り付かれていた。
 それから、視野が少し広がった。同じ光を探して、いつも行き来している街中や、何の変哲もない身近なものにカメラを向けた。同じ道路が雨にしょぼ濡れると、黄色いヘッドライトが反射してセリ・ヌワールの街になり、同じ街角が霧に包まれると、緑色を帯びて吸血鬼の住んでいそうな中世の街になる。
 こうして、私は、いつも昇り降りしている階段やアトリエの窓、凍てつく道路や夜空を飾るネオン、寂し気なメリー・ゴー・ラウンドを撮影した。友人たちと夜の街をぶらつきながら、何らかの感覚を起こさせる光や建物に向ってシャッターを切った。夜の街は美しく、幻惑的だった。どこか生暖かな生活の匂いをさせながら、神話的な世界に誘い込んでくれる入口のように見えた。図らずもそれは、こちらが夢み、欲望した被写体だとしたら、何て優雅な遊びだろう。そう思いながらシャッターを押した。 
 とりたてて被写体を追うでもなく、普段から見知った風景の中に紛れ込める幸せを、写真は与えてくれた。

(到津 伸子)

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