PARIS レポートNo.6-2
2005.11

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『村と人々』について

 フランシュ・コンテ地方はフランスの東部に位置し、スイスに接する丘陵地帯である。北はアルザス、ロレーヌ、シャンパーニュ地方に、西(と南)はブルゴーニュ地方に接している。フランス第2の森林地帯をかかえ、美しい自然に恵まれている反面、冬は寒さが厳しく、あたり一面がすっぽりと雪に埋もれるという気候環境をもつ地域でもある。古くから、麦・ジャガイモなどの農業を中心に、牛・馬・豚などの畜産業、ブドウ・りんごなどの果樹園、さらには林業などを行ってきた、どちらかと言えば牧歌的な地域である。もっとも近年は時計などの精密機器工業やTGV車両の製造でも知られてようであるが…。
 ベルナール・ガントナーは、ベルフォールに生まれ、現在も上ソーヌにアトリエを構えている。パリで美術を学んだ一時期を除いてこのフランシュ・コンテで過ごしてきたわけであり、その半生を通して故郷を愛し、故郷の風景、故郷の人々の生活を描いてきた巨匠である。このことが現代の「バルビゾン派」と称される所以であろう。
 この現代のバルビゾンが、同じくフランシュ・コンテを愛する作家、ジャン・ルイ・クラードの知遇を得て出版したのがこの『村と人々』である。作家は、20世紀前半ころと思われる村の生活をやや古風な表現を用いながら美しい文章で描く一方、機械化の進展を受け入れつつ、それにより人々の生活様式や人間関係、さらには労働(職業)の内容が少しずつ変質してきたことに一抹の寂しさをにじませている。
 その内容は、職人の生活、農業牧畜、宗教行事、子供の楽しみ、山・森・湖などの自然等々多岐にわたっており、43の珠玉のエッセイ集を構成している。画家は、序文で「この文章は、私たちが知っていた、あるいは私たちの祖先が実際に生きてきた村での生活をよみがえらせる。若い人たちにとっては、彼らが知らない生活、生き生きとした歴史の発見である」と述べているが、これは何もフランスのことだけではない。まさに大正から昭和前期ころの日本の農山村の姿そのものだと言っても過言ではない(キリスト教と仏教神道の違いはあるが)。“古きよき時代”を懐かしむ感情に国境はないように思える。
 本文はフランス語で書かれているが、一編一編が短いので、多少語学の心得のある人ならば、辞書をめくりながらそのエッセンスに触れることができるだろう、ぜひお勧めしたい。また、各文章にガントナー夫人の手による英文の抄訳が付されているのも嬉しい。
 絵はガントナーの手によるフランシュ・コンテの自然と村々を描いた美しい水彩画である。細かい観察に裏付けられ、美しい色遣いで描かれたこれら47枚の絵からは、この小さな本の中だけではなくぜひ原画で見てみたいという誘惑を覚える。70年近くにわたり、朝に夕にフランシュ・コンテの自然を観察し続けてきた画家の集大成とも言うべき画集である。また、一つ一つの文章の片隅に描かれた小さなイラストも見落とすことができない。
 画家は序文で、「私の水彩画では、家や庭の美しさがあたかも目の前にあるかのように、またそれらが今でも残されているかのように描かれている。時は止まっている。過去と現在が混在している。」と述べている。画家と作家の息はぴたりと合っている。
 この挿画本では、絵は文を一々解説していないし、文もまた絵を解説してはいない。しかし、絵は文で語られた人々の生活の背景を美しく表しており、文は絵に描かれた村々で営まれる人々の日々の生活を闊達に語っている。絵と文の見事なコラボレーションである。

                      

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