服部 和三郎展  − 花々と少女を描く −
会期: 2003年 2月20日(木)3月12日(水) 
 12:00−19:00 日曜 休廊
作家詳細
 ●作家来廊日:2/21(金), 22(土)3/12(水)2:00〜
会場: アートスペース・サンカイビ   →地図 前ページへ
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  「バラと少女」 油彩 1F             「アイリス」 油彩 4F

 油絵を始めようと思っている人から 「何を揃えればよいか?」 と問われたら、あなたならどう答えるだろう? 「絵の具、筆、キャンバス・・・」 多くの人はこう答えるかもしれない。しかし、服部和三郎の答えは一風変わっている。真っ先に必要なものは「油」であって、絵具ではないらしい。日頃、既製のペインティングオイルを使い、油は絵具を溶くための “薄め液” 程度にしか思っていない頭は強打されてしまう。それにしても、どんな理由からそう言えるのだろう?

 服部和三郎のアトリエでは珍しい光景を目にする。イーゼルの下におびただしい数の油瓶が置かれているのだ。作品の最大の特徴は、地塗りから完成まで一貫して 「油」 が有効に使われることにある。まず、キャンバスと絵具が馴染むように油を混ぜた白色地塗りを施し、墨で下絵の輪郭線を描き入れ、灰色の濃淡をつける。その上から油で溶いた透明な絵具を何層にもごく薄く塗りながら彩色していく。その結果、完成した作品は油絵本来の深い光沢と透明感を手に入れている。一見すると水彩やテンペラにしか見えないし、キャンバスではなくボードではないかと見紛うほど硬質感ある出来栄えである。どの過程でどの油をどのくらい使うかは門外不出だ。30年以上も油の調合に明け暮れ黄金比率を追求する姿は、秘伝のレシピに精魂傾けるシェフのようでもある。

 
● 製作過程の作品(花) ● おびただしい数の画溶液と絵筆
「油」 に対するこだわりは、40歳を過ぎてからのヨーロッパ旅行に端を発する。歴史上の巨匠達の油絵が、自分の今まで見知ってきたものとは根本的に違うと愕然とした。同じ種類の絵とは到底思えなかった。このショックから、「油絵とは何か。」 の自問自答が始まる。油とは何か、顔料とは、キャンバスとは・・・。美術学校でも師にも教えられなかった基礎を自分の努力で学んだ。巨匠達の描きかけの未完作が格好の教本となった。その結果、油絵はさまざまな化学的要素の産物であり、それには画材、特に油の性質を熟知し自在に使いこなせることが不可欠だという例の持論に達する。直情的な芸術衝動だけでは、イメージした画像に永遠の命を吹き込むことはできない。画家は化学者、あるいはもっと広く科学者でなければならない、と考える。修復家の言葉ではないかと錯覚する。ずいぶん特異な考えではないのか・・・? 実はそうではない。500年前に同じことを言っている先達がいるのだ。かのレオナルド・ダ・ビンチである。彼も画家であり、科学者であった。

 小さい頃から絵描きになりたかった。生家の蔵の中で画集に見入っていた服部少年の夢は、魔法の油と結合し、麗しい花々となってキャンバスに固着された。長い実験時間を要したなんとエレガントな化学反応であろうか。

  今回は花を基調にした静物・人物画など油彩約20点を展示致します。是非この機会にご高覧頂きますようご案内申し上げます。
アートスペース・サンカイビ


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